登記済証・登記識別情報
【おことわり】
このブログでは、登記済証と登記識別情報を区別して記載する必要がない限り、登記済証・登記識別情報をことを、「権利証」に統一して記載します。
登記済証と登記識別情報の違い
司法書士にとって登記済証と登記識別情報の違いは重要ですが、一般の方にとっては同じ性質のものと考えていただいて良いでしょう。
念のために、両者の主な違い(特徴)は次のとおりです。
登記済証
- 1申請ごとに発行される
- 登記申請時に、副本を提供しなければならない(副本が登記済証として返却される)
- 原則、もう発行されることはない(例外として発行されることはあるがレアケース)
- オンライン申請でも、書面申請でも、登記申請時に登記済証の原本を提供する必要がある
登記識別情報
- 物件ごと、人ごとに発行される(物件数×共有者数。ただし、敷地権付区分建物(マンション等)の場合には土地の数に関わらず物件数は1。)
- 現在、登記申請時に発行されるのは登記識別情報
- オンライン申請の場合は登記識別情報を入力する必要がある
- 書面申請の場合は、登記識別情報通知の原本又は写しを添付する必要がある
なぜ権利証が必要なのか?
不動産登記は、原則、「共同申請」という形態を取っています。
共同申請とは、権利者と義務者が共同して申請する方法のことです。
たとえば、売買を原因として所有権移転登記を申請する場合を例にとると、権利者と義務者は以下のようになります。
- 権利者:所有権を取得する者(買主)
- 義務者:所有権を失う者(売主)
権利者と義務者が共同して所有権移転登記の申請をすることにより、登記の申請を審査する法務局では当事者間に登記原因の「売買」があったものとして取り扱います。
他に却下事由がなければ、申請された内容に基づいて、登記されることになります。
この共同申請の際に、義務者は権利証を提供しなければなりません。
権利証は義務者本人にしか発行されないものであるため、権利証が提供されて登記の申請がなされるということは、義務者本人が申請したものと扱われます。
以上の事情から、共同申請を原則とする不動産登記においては、権利証は必要かつ大事な書類となります。
権利証がない場合の手続き方法
万が一、義務者が権利証を提供することができない場合は、次の3つの手続のいずれかを利用することになります。
- 資格者代理人の作成による「本人確認情報」の提供
- 事前通知
- 公証人の認証
原則的にはどの制度も利用は可能です。
しかし、実際には、取引内容、当事者間の関係性などの状況を総合的に考慮した上で、どの方法を利用するかが決まります。
どの方法を選択するかについては、詳しくは司法書士にお問い合わせください。
資格者代理人の作成による「本人確認情報」の提供
資格者代理人(弁護士又は司法書士)が、登記申請前に権利証を準備できない義務者と面談をします。
運転免許書等の公的身分証明書の確認、ヒアリングなどを通じて、「面談した方は権利証を準備できないが義務者本人に間違い」と心証を得たら、「本人確認情報」を作成します。
本人確認情報という名称の書類ですが、実質的には保証書と同じと考えていただければイメージはつきやすいでしょう。
この「本人確認情報」を権利証の代わりに添付して申請する方法です。
注意点
「本人確認情報」は、必ず資格者代理人が作成しなければなりませんので、本人申請では利用することができません。
また弁護士や司法書士であれば誰でも良いというわけではなく、申請代理人(実際に登記手続を代理する者)が作成しなければなりません。
必要書類
通常の登記必要書類(権利証を除く。)のほか、次の種類の身分証明書等をご準備いただくことになります。
【1点以上】
- 運転免許証
- 運転経歴証明書(平成24年4月1日以降に発行されたもの)
- 個人番号カード(マイナンバーカード)
- パスポート
- 在留カード
- 特別永住者証明書
【2点以上】
ご本人の氏名・住所・生年月日の記載がある次の書類
- 被保険者証(国民健康保険被保険者証、健康保険被保険者証、船員保険被保険者証、後期高齢者医療被保険者証、介護保険被保険者証)
- 健康保険日雇特例被保険者手帳
- 国家公務員共済組合又は地方公務員共済組合の組合員証
- 私立学校教職員共済制度の加入者証
- 国民年金手帳
- 児童扶養手当証書
- 特別児童扶養手当証書
- 母子健康手帳
- 身体障害者手帳
- 精神障害者保健福祉手帳
- 養育手帳
- 戦傷病者手帳
多少正確さは欠きますが、大まかに分類すると以下のとおりです。
- 顔写真付きの公的身分証明書なら1点以上
- 顔写真のない公的身分証明書なら2点以上
なお、当事務所では登記申請に万全を期すため、法定で必要とされる身分証のほか、固定資産税の納税通知書など、1~2点以上の書類を追加でご提供をお願いしております。
事前通知
登記申請後、法務局は義務者宛に確認の通知を送付します。
通知を受け取った義務者は、期限内に法務局に書類を返信して本人確認を行う方法です。
事前通知の問題点
事前通知は、簡単な方法と思われがちですが、権利者にとってはリスクが高い方法になります。
義務者は、法務局が確認の通知を発した時点から2週間以内(海外在住の場合には4週間以内)に書類の返信をしなければなりません。
上記の2週間の期間は「法務局が通知書を発した日」を起算点とするため、義務者は実質的には1週間程度で対応しなければなりません。
たとえば、知らない第三者から不動産を購入する側(買主)の立場であれば、売主である義務者が事前通知を希望した場合に、承諾できるでしょうか?
司法書士としては、「NO」と言わざるを得ません。
以上のように、義務者がきちんと対応してもらえなかったら却下となってしまう事前通知制度の制度は権利者側がリスクを抱えることになるため、利用できるケースは限定的です。
なお、義務者が3か月以内に住所変更の登記を申請していた場合には、前住所にも事前通知が届きます。
必要書類
事前通知制度を利用するためには、必ず印鑑証明書を添付します。
所有権移転登記や抵当権設定などの所有者が義務者となる場合には、通常の登記必要書類として印鑑証明書を準備しなければなりませんので、特別用意する必要はありません。
しかし、抵当権抹消など通常は印鑑証明書を添付しないような登記申請の場合であっても、印鑑証明書を提供しなければなりません(実印で押印します)。
公証人の認証
登記申請前に、事前に公証人の認証を受けてから登記申請を行います。
必要書類等
公証人から認証を受けるために、公証人が本人確認を行います。
印鑑証明書または運転免許証などの本人確認書類が必要となります。
その他に、公証人の認証手数料を納めなければなりません。
その他
登記申請前に、事前に公証人の認証を受けなければなりませんので、通常より時間がかかります。
まとめ
権利証が無くても登記申請自体は可能です。
しかし、どの方法を選択するにしても、費用や時間、そしてリスクが伴います。
不動産登記制度は、「国民の権利の保全を図り、もって取引の安全と円滑に資することを目的」としています(不動産登記法1条)。
相手方のためにも、もちろんご自身の負担のためにも、権利証をきちんと保管されることをお勧めいたします。
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