相続登記義務化
所有者不明土地の発生予防に向けて、次の2つの登記制度の見直しが行われます。
- 相続登記の申請義務化
- 住所等の変更登記の申請義務化
本ブログでは、「相続登記の申請義務化」について記載します。
「住所等の変更登記の申請義務化」については、別ブログでご紹介いたします。
なお、所在不明土地対策に関連して、他にも制度変更が行われますが、本ブログでは「登記」関連に焦点を絞っています。
なぜ相続登記義務化!?
平成29年度の地籍調査等によると、不動産登記簿上で所有者の所在が確認できない土地の割合は22%程度とされており、その面積(約410万ha)は九州より広いとされています。
登記簿上の所有者が死亡し、数代にわたり相続登記がされていない場合には相続人が多数となり、その所在を把握するのが困難になっていることなどが原因とされています。
不動産を取得したとき、ローンの担保に提供したときなど、法務局(登記官)に登記申請を行いますが、これまで不動産登記の申請は「任意」、つまり義務ではありませんでした。
公共事業をしようとしても、一部の相続人と連絡が取れない又は所在不明であるため、用地取得に多大な時間と労力を要したり、或いは困難になる事例が発生しました。
国は、相続登記がなされていないのは、相続登記の申請が任意であり、かつ、相続登記の申請をしなくても相続人が不利益を被ることが少なかったことが原因であると考えました。
そこで、所在不明土地の発生を予防し、国土を円滑に利用できるようにするため、これまで任意とされていた相続登記等を義務とすることにしました。
上記は国を主体に記載していますが、一般の方においても、例えば隣地の樹木の枝が伸びてきたけど排除したい場合、隣の空家が崩れ落ちそうで危険な場合など、適切に相続登記がなされていないと、誰を相手に訴えれば良いか分かりません。
義務化と聞くと、マイナスなイメージをいただきますが、相続登記が義務化されることによるメリットもございます。
相続登記義務化はいつから?
令和6年4月1日から施行されます。
これまで生じた相続で相続登記が未了の場合は、施行期日を待たずに着手したほうが良いでしょう。
相続登記義務化で何が変わる?影響は?
相続登記の申請期限
これまで、相続登記の申請期限はございませんでした。
令和6年4月1日より、初めて相続登記の期限が設けられることになりました。
相続により、不動産を取得した人は、その所有権を取得したことを『知った日から3年以内』に相続登記をしなければなりません。
まず、「相続により」とありますが、遺言により遺贈された場合を含みます。
次に「その所有権を取得したことを知った日」とは、被相続人の死亡日とは限りません。
例えば、相続人間で遺産分割協議を行っていたが、話し合いがまとまらず相続開始日から数年経って合意(成立)に至る場合もあります。
この場合には、合意が成立した日、つまり遺産である不動産を誰が取得するのかが確定した日から起算します。
時期 | 相続登記の申請期限 |
令和6年3月31日まで | 申請期限なし |
令和6年4月1日から | 相続により取得したことを知った日から3年以内 |
相続登記の申請義務化に違反した場合
正当な理由がないのに義務に違反した場合、10万円以下の過料の対象になります。
相続人申告登記の新設
相続人申告登記とは、ざっくり説明すると、相続登記の申請期限内に相続登記が申請できない場合に、上記義務違反を回避することができる手段です。
※通常の相続登記とは性質が異なります。
下記①②③の条件が揃えば、相続登記の申請義務を履行したことになります。
① 登記簿上の所有者について相続が開始したこと
② 相続を知った日から3年以内に申し出ること
③ 自らがその相続人であることを登記官に申し出ること
この申出がされると、申出をした相続人の氏名・住所等が登記されます。
※持分の割合は登記されません。
不動産を所有している方が亡くなった場合、その相続人の間で遺産分割の話し合いがまとまるまでの間は、法定相続分の割合で不動産を共有した状態になります。このような状態を「遺産共有」と呼びます。
遺産共有の状態、つまり法定相続分で相続登記を申請することを前提とすると、通常は法定相続人の範囲や法定相続分の割合を確定するために、全ての相続人を把握するための資料(戸籍謄本など)の収集が必要となります。
しかし、この相続人申告登記では、申請者自身が相続人であることが分かる戸籍謄本を提出すれば良いこととなりました。
相続人申告登記のメリット
まず、メリットについてです。
- 相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内の相続登記の義務を、一応は履行したとみなされる(期限が超過しても、10万円以下の過料は課されないことになります。)
- 相続人の一人からでも申請可能
- 添付書面が少ない
相続人申告登記のデメリット
反対にデメリットとは次のとおりです。
- 相続登記申請義務の申請期限より早く期限が到来する
- 売却など処分する場合には、具体的相続分の登記を申請する必要がある
まず、1についてです。
相続登記の申請期限は、「相続により、その所有権を取得したことを知った日から」起算します。一方、相続申告登記は、「相続を知った日から」起算します。
元々、相続申告登記は、相続登記申請義務違反を回避するためだけの制度であるため、遺産分割協議の成立を待つことなく、相続開始を知った日から起算することになります。
次に、2についてです。
相続人申告登記は、相続人の申請義務のみ履行したことにする簡易な手続きであるため、本来の相続登記とは性質が異なります。
最終的には、具体的相続分、つまり遺産分割協議等の結果による登記申請をしなければなりません。
たとえば、相続人申告登記後、遺産分割協議でその不動産を取得した相続人が売却を考えたとします。
この場合、売却前に、遺産分割協議に基づいて、相続登記をすることになります。
とりあえず、義務を履行したことで安心してしまい、具体的相続分での相続登記申請を放置した結果、遺産分割協議がスムーズにまとめられなくなった、という事例が起こる可能性があります。
併せて注意したい遺産分割協議の期限
遺言がない場合又は法定相続で相続する場合を除き、共同相続人全員の協議により、遺産を分割します(以下「遺産分割協議」といいます。)。
これまで、遺産分割協議をしなければならない期限は設けられておりませんでした。
しかし、令和5年4月1日の改正により、遺産分割協議についても、原則として、相続開始の時から10年以内にしなければなりません(民法第904条の3)。
特に、相続申告登記を利用した場合には、急いで遺産分割協議をしなければならない理由の1つが失われてしまいますので、注意を要します。
まとめ
相続登記義務化は悪か?
今回の改正を改悪(マイナス)と考える方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、これまで任意だったものが、義務となると、負担が増えるように思える気持ちを理解できないわけではありません。
しかし、実際に不動産を所有し、売却したり、抵当権設定などの処分をする場合には、契約上の義務として適切な登記手続きを要求されています。
事実上、一般慣行として登記手続きは義務となっています。
そして、相続登記は、所有者として登記されている方(所有権登記名義人)に相続が生じていたら、前提条件として必ず登記申請すべきものです。
したがって、「いつかしなければならない」ものが、「すぐに(3年以内)にしなければならない」に変わったとも考えられ、単純に相続登記義務化は悪とは言えないと思います。
相続登記は早めにするのが吉
相続に関するご相談をお伺いしていると、何十年、場合によっては何世代も相続登記を放置しているケースに遭遇します。
これまでは、不動産を処分するなどの特別な事情がなく、相続登記をしなくても、特段不都合が生じていなかったのでしょう。
しかし、年数が経ってからの相続手続は、手間がかかることが多いです。
相続人にさらに相続が生じていたり、相続人の中に連絡が取れない方がいたりなど、相続開始時には問題なく進めれたことが、複雑化します。
複雑化すると、時間だけではなく、費用面でも高額化してしまいます。
そう考えると、今回の相続登記義務化は、相続人に早期の相続登記を促すことによって、将来における過去の相続に関するリスクを回避することにつながる、とも考えることができます。
相続に関するご依頼をいただいている身としては、相続登記は早めにするほうが、皆さまにとってメリットがあるように感じます。
これを機に、これまで相続登記をしてこられなかった方は、前向きに相続登記を検討されてはいかがでしょうか?
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