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検索用情報の申出とは?
不動産登記法上、一部の例外を除き、所有者などの当事者からの申請がなければ登記はされません。
この検索用情報の申出は、所有者が、法務局に対して、あらかじめ「検索用情報の申出」をしておけば、氏名又は住所(以下「氏名等」といいます。)の変更があった場合に、氏名等の変更登記をしなくても、職権で住所等の変更登記が行われる仕組みです。
*職権とは?
検索用情報の申出に当てはめて分かりやすく説明すると、当事者の申請がなくても、登記官(法務局)の権限で住所等の変更登記をしてくれることです。
この制度は、令和7年4月21日からスタートします。
フローチャート
検索用情報申出から、実際に氏名等の変更登記されるまでのフローチャートは以下のとおりです。
検索用情報申出
あらかじめ登記名義人から検索用情報の申出
↓
申出手続が完了した旨の連絡
<申出した電子メールアドレスに届く>
職権による住所等変更登記
氏名等が変更
↓
市区町村役場で氏名等の変更手続き
<転出・転入届、婚姻届など>
↓
法務局(登記官)が、定期的に住基ネット情報を取得
↓
氏名等の変更があったことを確認
↓
法務局から所有者(所有権登記名義人)に対して意思確認
<申出したメールアドレス宛に届く>
↓
上記意思確認に対して了解する旨の回答
↓
職権により氏名等の変更登記
法務局に、メールアドレスの提供していれば、自動的に氏名等変更登記がされるわけではありませんので、注意が必要です。
法務局から申し出たメールアドレス宛に、意思確認のメールが届きます。
このメールに了解する旨の回答をしなければ、氏名等変更登記がなされません。
これは、DV被害などで、最新の住所を登記簿に記載したくない事情を考慮した措置になります。
検索用情報の申出が始まる背景
令和8年4月1日から、不動産の所有者は、氏名等の変更日から2年以内に変更登記ををすることが義務付けられます(不登法第76条の5)。
この氏名等変更登記の義務化は、施行日(令和8年4月1日)前の氏名等変更にも適用があり、この場合は施行日から2年以内に氏名等変更登記を申請しなければなりません。
所有者が、正当な理由がないのに氏名等変更登記の申請を怠ったときは、5万円以下の過料に処せられます(不登法第164条第2項)。
検索用情報の申出制度は、この氏名等変更登記の義務を軽減するためです。
ですが、この氏名等変更登記の義務化は、相続登記義務化と同時に決まったことです。
公共事業を行う場合などに、誰が所有者で、そして連絡が取りやすいようにしておく、というのが真の背景になります。
しかしながら、根本となる背景はともかく、この申し出をすることにより、所有者の負担は軽減されることになるでしょう。
検索用情報の申出のメリット・デメリット
メリット
- 氏名等変更登記を申請する手間が省ける
- 氏名等変更登記申請に必要な登録免許税(不動産の数×1000円)の負担がなくなる
- 不動産を売却等するときに、慌てて氏名等変更登記をしないで済む
デメリット
- あらかじめメールアドレスなどを申出しなければならない
- 申し出たメールアドレスを使い続けないといけない(ただし、変更の申出は可能)
- メールアドレスは、所有者固有のもの(その人しか使わない)ものである必要がある
- 法務局(登記官)が、定期的に住基ネットの情報を検索する
検索用情報の申出方法
申出方法としては2種類あり、「同時申出」と「単独申出」の2種類があります。
同時申出
下記の所有権に関する登記申請と同時に、検索用情報の申出をするものとされています(不登規則第158条の39第1項)。
*電子メールアドレスを法務局に提供したくなかったとしても、検索用情報の申出は必要です。
- 所有権保存登記
- 所有権移転登記
- 合体による登記等
- 所有権更正登記(この登記によって所有権の登記名義人になる者があるときに限る。)
次に該当する場合は、検索用情報を申し出ることができません。
- 法人
- 海外居住者
- 登記の申請人でない場合(代位の登記)
- その他所有権以外の登記申請の場合(仮登記、信託の登記など)
つまり、検索用情報の同時申出ができるのは、日本に居住している自然人(個人のこと)で、かつ申請人自らが登記申請している場合、となります。
検索用情報同時申出の具体的な内容
所有権移転登記等の申請書に次の情報を記載します。
- 氏名
- 氏名の振り仮名(日本国籍以外の方は、ローマ字) ※1
- 住所
- 生年月日
- 電子メールアドレス ※2
※1 氏名の振り仮名
外国人であっても、通称名の場合で登記する場合には、ローマ字での記載は不要。
外国人住民票にローマ字氏名の記載がない場合には、ローマ字氏名の記載は不要。
※2 電子メールアドレス
所有権登記名義人のみが現に利用するものに限る(複数人が利用するメールアドレスは不可)。
メールアドレスがない場合:「メールアドレスを有しない」旨を記載する。
メールアドレスを提供したくない場合:「メールアドレスを提供したくない」旨を記載する。
なお、電子メールアドレスは、登記簿上には記載されません(非公開情報)。
添付書類
所有権移転登記等を申請するときに、住所証明情報として住民票を添付する場合には、追加で添付書類が必要になることはありません。
ただし、住所証明情報として添付した書類(たとえば、印鑑証明書で代用する場合など)に、「氏名の振り仮名」及び「生年月日」の記載がない場合には、別途これらを証する書類を添付することが必要になります。
その他に、代理人が申請する場合には、委任状が必要となりますが、所有権移転登記等を申請の委任状と兼用すると思いますので、改めて準備することはないでしょう。
注意点
過去に検索用情報の申出をした方が、別の不動産を取得して所有権に関する登記をする場合は、当該登記申請と併せて、再度、検索用情報の申出が必要です。
たとえば、A不動産を取得し、後日B不動産を取得した場合、それぞれの登記申請ごとに、検索用情報の申出が必要となります。
また、過去に同一の不動産の持分を取得した方が、同一の不動産でさらに持分を取得した場合にも、当該登記申請と併せて、再度、検索用情報の申出が必要です。
たとえば、所有権一部移転登記で持分1/2を取得し、後日何某持分全部移転で残りの持分1/2を取得した場合、それぞれの登記申請ごとに、検索用情報の申出が必要となります。
要するに、所有権に関する登記申請するときは、毎回、検索用情報の申出が必要になります。
単独申出
所有権に関する登記申請とは別に申出する方法で、以下の場合が該当します。
- 令和7年4月21日時点で既に所有権の登記名義人である者
- 令和7年4月21日以降に所有権の登記名義人となった者で、その登記の申請の際に申請人とならなかった者
単独申出の場合における内容などは、同時申出と同じです。
異なる点のみ記載します。
検索用情報単独申出の具体的な内容
提供する内容は同時申出の場合と同じですが、所有権移転登記等と同時ではないため、別途「検索用情報の申出書」を作成して手続きすることになります。
同時申出と同じように検索用情報(氏名、氏名の振り仮名、住所、生年月日、電子メールアドレス)のほかに、次の内容を記載します。
- 代理人の氏名及び住所
- 申出人又は代理人の電話番号その他連絡先 ※1
- 申出の目的(「検索用情報の申出」と記載)
- 不動産の表示(順位番号も記載)
- 添付情報
- 申出の年月日
- 申出情報を提供する登記所の表示
※1 代理人について
他人の依頼を受けて、業として検索用情報申出手続きの代理ができるのは、弁護士又は司法書士となります。ご注意ください。
添付書類
- 申出人となるべき者が申出をしていることを明らかにする市町村長その他の公務員が職務上作成した情報(当該情報を記載した書面の写しを含む。)
公的身分証明書の写し(コピー・PDFデータ)
※具体的には、下記のとおり(申出人の氏名、住所及び出生年月日の記載があるもの)
運転免許証、個人番号カード(マイナンバーカード)、パスポート、在留カード、特別永住者カード、運転経歴証明書、国民健康保険等の資格証明書、介護保険被保険者証、基礎年金番号通知書、児童扶養手当証書、母子健康手帳、身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳、戦傷病者手帳
- 代理人によって申出をするときは、当該代理人の権限を証する情報
委任状
- 氏名・氏名の振り仮名・住所・生年月日を証する市町村長その他の公務員が職務上作成した情報(公務員が職務上作成した情報がない場合にあっては、これに代わるべき情報)。ただし、所有権の登記名義人に係るものであることを登記官が確認することができる当該事項を検索用情報申出情報の内容としたときを除く。
登記簿に記録されている氏名・住所に変更があり、その変更の経緯を住基ネットで確認することができない場合には、変更の経緯を確認することのできる書類(戸籍の附票、戸籍の証明書、本籍の記載のある住民票の写し等)の提出が必要
注意点
不動産を共有(複数人で所有)する場合
- それぞれ申出することが必要です。
- メールアドレスは別のものを用意する必要があります。
まとめ
これまで氏名等変更登記は申請しなければ、登記されない仕組みでした。
そのため、結婚や引っ越しの際に、市役所に届け出たことで、登記も変更されていると思い込んでしまう方も多かったと思います。
この申し出により電子メールアドレスを法務局に提供しておけば、今後は氏名等変更登記に関する面倒な手続きや登録免許税などの負担がなくなります。
まだ施行されていませんので今後の動向に注意は必要ですが、検索用情報申出により電子メールアドレスを提供することで、利便性が向上することになるでしょう。
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